2022年5月23日

オーストラリア連邦議会総選挙:新政権による再生可能エネルギーへの影響

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新しい政権

2022年5月21日にオーストラリア連邦議会選挙が行われ、アンソニー・アルバニージー氏が率いる労働党が、スコット・モリソン氏が率いる保守連合に勝利を収めました。保守連合は、2013年から政権を担っていました。

背景

労働党が政権に就いていた当時、排出量取引制度の導入を試みて、大きな政治的反発を受け、結果的に2011年クリーンエネルギー法(Clean Energy Act 2011)のもとで当初発表されていた制度より緩やかなものが採用されました。しかしながら、2013年の保守連合との政権交代を機に同法は2014年に廃止されました。 

排出量取引市場が存在しない中、連邦政府と州政府は再生可能エネルギーを推進するため、補助金制度の構築や複数のグリーンファンドの組成や枠組みの立ち上げに取組んでいました。労働党は以前のような排出量取引制度を導入する予定はなく、現行の政策を継続する予定です。

労働党は以下の再生可能エネルギーに関する政策及び投資を計画しています。

再生可能エネルギー

  • 「新エネルギー実習生」(New Energy Apprentice)制度:1 万人の「新エネルギー実習生」を育成するための政策を発足し、実習生を受け入れる対象産業の企業に年間2,000豪ドルの補助金の支給を予定しています(年間1万豪ドルを上限とする)。対象産業には、太陽光発電装置の設置及び整備、グリーン水素、家庭や企業の省エネ化、再生可能エネルギーに関連する製造業、及び農業活動などを含む大規模な再生可能エネルギープロジェクトが挙げられています。
  • 「パワーリング・ザ・リージョンズ・ファンド」(Powering the Region Fund):地方の既存産業のエネルギー効率化と新産業育成の支援を目的とするファンドであり、現時点では対象の地域、資金の支給方法などの詳細は明らかにされていません。
  • 国家再建ファンド(National Reconstruction Fund):グリーンメタル(鉄鋼、酸化アルミニウム、及びアルミニウム)、再生可能エネルギー関連の機器製造、水素発生装置、燃料転換、農業におけるメタンガス排出削減、廃棄物削減などに投資する 150 億豪ドル規模のファンド。労働党は、「オーストラリアの資源と競争力を活用した、付加価値及び能力の向上を目的とした投資に注力する」と述べています。 
  • 電気自動車:労働党は電気自動車の価格の引下げを目指し、以下の政策を導入予定です。
    • 一部輸入電気自動車の関税の引下げ
    • 職場が個人使用のために貸与する電気自動車に47%のフリンジ・ベネフィット税の適用

免税は低燃費の高級車の課税標準(77,565豪ドル)を満たさない車種に限られており、オーストラリアで現在販売されているほとんどの電気自動車は免税の対象外ですが、労働党は本税制により安価な電気自動車の輸入が促進されることを見込んでいます。

インフラ

  • ソーラーバンク及びコミュニティバッテリーの設置:労働党は、85台のソーラーバンク及び400台のコミュニティーバッテリーの設置を支援する制度を導入予定で、住居に太陽光発電装置を設置することができない個人による共同所有の太陽光発電や蓄電池プロジェクトへの出資を可能とするものです。ソーラーバンク及びコミュニティーバッテリーの設置地域や時期などについては明らかにされていません。
  • 電力網の改善:オーストラリアでは、系統接続が再生可能エネルギーの普及の障壁となっており、プロジェクトの遅延あるいは中止まで追い込まれた事例もあります。当計画の時期及び方法などついては現時点では不明です。 

政策

労働党は、その他政策については以下のものを現時点で公表していますが、各政策の実施の詳細及び達成度を測る基準となるベンチマークについては発表しておりません。

  • 政府のセーフガード・メカニズムが対象とする施設に関して、排出量の段階的かつ予想可能な削減の推進を求めるオーストラリア・ビジネス・カウンシルの勧告の採択。
  • Emissions Intensive Trade Exposed 対象産業の競争力の保護。
  • 2030年までにオーストラリア公共サービス(Australia Public Service)の温室効果ガス排出量のネットゼロ達成。
  • 消費者行動分析を目的とした、自動車の燃料試験プログラムの導入。
  • 大手企業と協力し、企業の気候変動に対する取り組みについて透明性の高い開示を実現。
  • 気候変動局(Climate Change Authority)の復興。当局の意思決定と責任は政府に帰属し、大臣による議会への年次報告制度の導入。

水素

オーストラリアの各州政府は、水素エネルギーの発展を積極的に推進しています。国家再建ファンドも水素エネルギーへの投資を想定していますが、労働党は水素エネルギーに特化した政策は示しておりません。しかし、オーストラリアがグリーン水素の投資先として注目を浴びているため、水素エネルギー産業が政府による再生可能エネルギーの推進による影響を受ける可能性が高いと見込まれています。

おわりに

オーストラリア政府による新しいファンドの組成や枠組みの導入は、同国で再生可能エネルギーのプロジェクトの開発を検討している企業に現状の制度では見込めない新たなビジネスチャンスをもたらし、特にグリーン水素プロジェクトの運営や事業拡大を検討している企業が恩恵を受けることが考えられます。しかし、ファンドの組成や枠組みの構築が再生可能エネルギー産業にとって有益である一方、政策の性質上、プロジェクトへの出資は市場ではなく、実際は政府の判断によって大きく影響されることを示唆しています。

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